語り手:足立千佳子さん/進行・聞き手:佐藤正実さん(NPO法人20世紀アーカイブ仙台)
■物が散乱した自宅
[足立さん(以下、足)]私は普段は色んな所でお仕事をしているので、家にいることが殆どないのですけれども、この日はちょうど午前中に家に帰ってきたんですね。仕事をしてメール送信をして、まさに2時46分にメール受発信してるんです。その日は、仕事が終わったらその後飲みに行こうっていう約束をしていたので、「よし、5時くらいから行くぞ」と思って、行く用意をしなきゃとか思っていたときに地震がきました。この時に、パソコンは落ちてしまうし、何もかも落ちてしまったので。
これ、すみません私、写真撮った記憶ないんですよね。
[佐藤さん(以下、佐)]何点かありましたよ。1階とか2階とか。
[足]夢中になって、多分、撮らなきゃと思ったんだと思うんですけど。その後の、佐藤さんが「写真集めてるんだけど」って言われたときも、「私、写真ないんです」ってずっと言ってたぐらい忘れていたんですね、撮っていたことを。iPhoneの中にいっぱい入っていて、これもそうだったと思うんです。私は自宅で仕事をしているので、ここがオフィススペースになっていたんですね。全て、書類から何から散乱して落ちてしまって、これ片付けるのどうしようかなと、途方に暮れている写真です。
■自作のかまどで炊き出し
[足]私の住んでいる所が岩切なんですけれども、避難所があることすら知らなかったんですね。情報が入ってこないんです。給水車っていうのが来ていることも知らなかったし、岩切は中学校が避難所になっていたらしいんですが、それも知らなかったので、とにかく自力でなんとかしなきゃいけない。買い物に行ってもお店が開いていないので、できるだけ節約しようということで、裏山があるのでそこから薪を拾ってきて、花壇のブロックを利用して、火を焚いてご飯を作りました。こうやって朝昼晩と薪を拾いに行って火をおこして飯ごうだったりお湯を沸かしたり、サバイバル生活を1週間くらいはやっていたような気がします。これは多分、私頑張っているなと思って写真撮ったんだと思います。
[佐]このブロックのこと聞こうと思ったんです。よくこういうブロックが家にあったもんだなと思ったんですが、花壇のブロックだったんですね。
■ひび割れた利府街道沿いの歩道
[足]車のガソリンも無かったので、多分この日は、東仙台に住んでいる娘のことが心配で、岩切から東仙台まで歩いていった時だったかなと思います。利府街道が結構すごい段差があって、「あら、すごいな」と思って写真を撮ったんですね。これの辺りで、岩切大橋の欄干が落ちたりだとか、利府の田んぼの中の新幹線の電信柱って言うんですか、あれが全部内側にドミノ倒しみたいな感じになってたりしたのを、ツイッターで上げたんですね。そうしましたら建築コンサルなどの友人も多かったので、彼らは「こういう力が入ったからこうに違いない」とか、色々と解説をツイッターでしてくれたんですね。それで、これは少し知らせた方が良いのかなと思って。こんなことでお役に立つんだったらどうぞ、というような形で撮っていたんだと思います。
[佐]そういう見方で、例えばツイッターに上げて、それがどういう風に解説されるかとか、そういう意味での情報発信でもあるのかな。
[足]そうですね、私、ここら辺のあたりは割と特定の仲間達というか、建設系の方達に知らせたいと思って、生の情報を見たいんだろうなと思ったので、そういう意味で撮りました。
■3,000円分のガソリン給油整理券をゲット
[足]これは、多分皆さんもご経験あると思うんですけれども、本当にガソリンが手に入らなかったのですね。私も毎日毎日、早朝の日課は「ここは給油が確実らしい」という噂をツイッターで聞き、朝の3時とか4時位から並ぶんですよ。並んで、寒いから毛布とか一杯持ってってエンジンを切って、みんなで、「今日は来ますかね?」とか話をしながら待っているのに、8時くらいになると「今日はやりません」っていう看板が出たりとか、あと半日くらいかけて、あと10台ですね、くらいになったときに、「緊急車両入ります」って言って20台も30台も緊急車両さんの方が入って「一般車両終わりです」っていうような空振りを、10日ぐらいずっと続けていたんですね。でもようやく段々入り始めているよ、というようなことを聞いて、今日こそは、というので並んだんです。そしたら初めて給油整理券が手に入ったので、やったと。これはすごく嬉しかったんですね。
[佐]ちょうど3月の末っていうのね、本当にガソリンが手に入らないときで、他の方が撮った写真だと、自転車でね、街ん中は自転車で移動するのが多くて、車使えなくて、っていう写真も多かったですけど、これがちょうどその時期に手に入れたと。この時はガソリン入れられたんですか?
[足]入れました。
[佐]整理券でまずもらって。
[足]そうそう。もらうとね、この時は「あと何時にきてください」みたいな形に言われて、持っている人は必ず入れられるようなシステムになっていたような気がします。
[佐]結構、ガソリンスタンドでトラブルっていうのも、新聞でも見たし、色々ツイッターやfacebookでも見たことあったんですけども、あんまりなかったですか?
[足]ありました。ずっと並んでいると、並んでいる人同士でお友達にというか、一種の連帯感が出てくるんですよね。そうすると、脇道からひゅっと入ってくるような人がいると皆で阻止したりとか。あとは置いていく車があるんですよ。でもそれを「置いてくな」って皆で説得したりですね。朝早くから並んでいるような人たちが仕切っているので、その仕切り方が良ければ和気あいあいなんですけども、あれ、っと思うとそこは殺伐としたりとか、やっぱり色々とあるな、という風に思いながら、何回も何回も並んでは空振りをして、この日初めてガソリンを手に入れました。
*この記事は、2013年4月30日にせんだいメディアテークの考えるテーブルで行われた『3.11定点観測写真アーカイブ・プロジェクト公開サロン「みつづける、あの日からの風景」』で、足立千佳子さんがお話された内容を元に作成しています。
当日の様子はこちらからご覧いただけます。
《考えるテーブル レポート》→http://table.smt.jp/?p=2846#report
【3.11定点観測写真アーカイブ・プロジェクトとは】
このアーカイブ・プロジェクトは、東日本大震災で被災した宮城県内各市町の震災直後の様子、および震災から定期的に定点観測し復旧・復興の様子を後世に残し伝えるために、市民の手で記録していくものです。これから市民のみなさまから記録者を募っていくとともに、その情報交換・活動の場を公開サロンとして定期的に行っていきます。これらの定点観測写真は、NPO法人20世紀アーカイブ仙台とせんだいメディアテーク「3がつ11にちをわすれないためにセンター」で記録・公開し、市民参加で震災を語り継ぐ記録としていきます。
NPO法人20世紀アーカイブ仙台
公式Web:http://www.20thcas.or.jp/
【考えるテーブルとは】
人が集い語り合いながら震災復興や地域社会、表現活動について考えていく場を「考えるテーブル」と題して、せんだいメディアテーク、7階スタジオに開きます。トークイベントや公開会議、市民団体の活動報告会など多様な催しを行っていきます。